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一言一行いさぎよく
日本帝国軍人の
鑑を人に示したる
■廣瀬中佐は死したるか |
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8 |
再度の成功 期せんとて
時は彌生の末つかた
中佐は部下と諸共に
■勇みて乗り込む 福井丸 |
2 |
死すとも死せぬ魂は
七たび此世に生れ來て
國の惠に報いんと
■歌ひし中佐は死したるか |
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9 |
天晴れ敵の面前に
日本男子(だんじ)の名乗して
卑怯の膽をひしがんと
■誓ひし事の雄々しさよ |
3 |
我は神州男兒なり
穢れし露兵の弾丸に
當るものかと壮語せし
■ますら武夫は死したるか |
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10 |
かくて沈没 功成りて
収容せられし船の内
杉野曹長見えざれば
■中佐の憂慮ただならず |
4 |
國家に捧げし丈夫の身
一死は期したる事なれど
旅順陥落見も果てぬ
■憾(うらみ)は深し海よりも |
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11 |
又立ち歸り 三度(みたび)まで
見めぐる船中影もなく
答ふるものは甲板の
■上まで浸す波の聲 |
5 |
敵弾礫(つぶて)と飛び來(きた)る
報國丸の千強に
忘れし劔を取りゆく
■その沈勇は神なるか |
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12 |
せんかたなくて乗り移る
ボートの上に飛び來るは
敵のうち出す一巨弾
■あなや中佐は撃れたり |
6 |
閉塞任務は 事をはり
ひらりと飛乗るボートにて
竿先白くひらめかす
■ハンカチーフに風高し |
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13 |
古今無雙(むそう)の勇将を
世に失ひしは惜しけれど
死して無數の國民を
■起たせし功は幾ばくぞ |
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逆まく波と弾丸の
間に身をば置きながら
神色自若 歸り來し
■中佐の体はみな膽(きも)か
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屍は海に 沈めても
赤心とどめて千載に
軍(いくさ)の神と仰がるゝ
■廣瀬中佐は 猶死せず |