牡蠣の殻(D)
昭和11年国民歌謡13

作詞
作曲
蒲原 有明
大中 寅二

牡蠣の殻なる 牡蠣の身の
かくも涯(はて)なき 海にして
生きの命の 味気(あじき)なき
■その思いこそ 悲しけれ

よしや清(すが)しき 夕づつの
光は浪の 穂に照りて
遠野が鳩の おもかげに
■似たりというも 何かせん

身はこれ盲目(めしい) 巖かげに
ただ術(すべ)もなく 眠れども
ねざむるままに 大海(おおうみ)
■潮の満干(みちひ) 覚ゆめり

いたましきかな 海神(わだつみ)
ふかき調べに 聞き恍(ほ)れて
夜もまた昼も わきがたく
■愁いとざす 殻の宿

いかに朝明 朝じおの
色青みきて 溢るるも
黙し痛める 牡蠣の身の
■あまりに狭き 牡蠣の殻
さもあらばあれ 暴風(あらし)吹き
海の怒りの 猛(たけ)き陽に
殻も砕けと 牡蠣の身の
■請い祷(の)まぬやは思いわび