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或時 口が首唱(しゅしょう)にて
目・鼻・手・足の うち集ひ
相談會を 開きける
■さて先ず 口の云へる様(よう)
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5 |
斯くて二・三日 経(た)たぬ間に
軆は自然に 衰へて
耳は鳴り出す 目は暗む
■手・足は萎ゆる 如何せん |
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2 |
一たい胃の腑と 言ふ者は
われわれどもが 働いて
毎日送る 食物(しょくもつ)を
■遠慮もなしに 食べて居る
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6 |
此時 胃の腑の云へる様
諸君が今さら 苦むは
自業自得と 云ひ乍(なが)ら
■ものの道理を 知らぬ故
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3 |
われわれどもは 胃の為に
むだ骨を折る 今よりは
其の働きを 止めにして
■胃の腑に辛き 目を見せん
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7 |
諸君の送る 食物は
われ等 夜・晝 消化して
其の血は 五軆に送らるゝ
■これぞ互の 為なれや
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4 |
皆々 げにもと同意して
目は物を見ず 鼻かゞず
足 食堂に行くを止め
■手は箸をだに 取りもせず |
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手・足をはじめ 耳・鼻は
この道理に 夢さめて
此後は胃の腑を 羨まず
■互の勉(つとめ)を 盡しけり |