人を恋ふる歌 【Dm】

作詞
作曲
与謝野鉄幹
奥  好義

妻をめとらば才たけて
みめうるわしく情(なさけ)ある
友をえらばば書を読みて
■六分(りくぶ)の侠気
■四分の熱

恋のいのちをたずぬれば
名を惜しむかな男(おのこ)ゆえ
友の情をたずぬれば
■義のあるところ
■火をも踏む

汲めや美酒うたひめに
乙女の知らぬ意気地あり
簿記の筆とる若者に
■まことの男 君を見る

ああ我コレッジの奇才なく
バイロン・ハイネの熱なきも
石をいだきて野にうたう
■芭蕉のさびを よろこばず

人やわらわん業平が
小野の山ざと雪をわけ
夢かと泣きて歯がみせし
■むかしを慕う むら心

見よ西北にバルカンの
それにも似たる国のさま
あやうからずや雲裂けて
■天火一度 降らんとき

妻子を忘れ家を捨て
義のため恥を忍ぶとや
遠くのがれて腕を摩(ま)
■ガリバルディや 今いかに

玉をかざれる大官は
みな北道の訛音(なまり)あり
慷慨(こうがい)よく飲む三南の
■健児は散じて 影もなし

四度(しど)玄海の波を越え
(から)の都に来てみれば
秋の日かなし王城や
■昔に変る 雲の色

10 あゝわれ如何にふところの
剣は鳴りをひそむとも
(むせ)ぶ涙を手に受けて
■かなしき歌の 無からめや

11 わが歌声の高ければ
酒に狂うと人のいう
われに過ぎたるのぞみをば
■君ならではた 誰か知る

12 あやまらずやは真ごころを
君が詩いたくあらわなる
無念なるかな燃ゆる血の
■価少なき 末(すえ)の世や

13 おのずからなる天地を
恋うるなさけは洩らすとも
人をののしり世をいかる
■はげしき歌を ひめよかし

14 口をひらけば嫉みあり
筆を握れば譏(そし)りあり
友を諌めて泣かせても
■猶ゆくべきや 絞首台

15 おなじ憂いの世に住めば
千里のそらも一つ家
己が袂をというなかれ
■やがて二人の 涙ぞや

16 はるばる寄せしますらおの
うれしき文を袖にして
きょうは北漢の山のうえ
■駒立て見る 日出づる方




おけら歌集(02/08/25) / コロポcheck(03/07/31)
楽譜:ビーさん(2004/09)