若水汲みとお葬式(工藤  東)

 昔々、正月のもちもつけないような大変貧乏な、じいさんとばあさんが住んでいました。
 今年も正月になったけれど、料理らしい料理は作れないので、粗末ながら、ばあさんの心ばかりの手づ<り料理で正月を過すことにしました。

 その当時も若水を汲みに出かける慣わしがありました。しかし、若水を汲むときには、新しい靴、おけ、ひしゃくを用意して出かける家が多かったのです。じいさんとばあさんは、買う余裕などありませんでしたから、ふだんのもので間に合わせ、どこの家の人よりも早く若水をくみに出かけました。

 途中、棺おけをかつぐ人たちと出会いました。「正月なが、どこの葬式だんだべな。」 ところが、その棺おけを持ってきた人たちは、じいさんとばあさんの家の前へ置くと、逃げるように立ち去りました。じいさんとばあさんは、家の入口前の棺おけを見ておどろいてしまいました。
 「夜中に棺おけをかついで持ってくるなんて、困ったもんだ。明るくなったらむらの人さ頼むべし。」 二人はろくろく眠ることもできず朝を迎えました。

 総代さんへ相談にいったら、「正月なが、悪いやっもいるもんだな、どら、わ(我)も行ってみるね。」と言って、じいさんとばあさんの家の前まできて、棺おけのふたを開けました。ところが、棺おけだとばかり思っていた中にはお金がたくさん入っていました。

 それから後、じいさんばあさんばかりでなく、むらの人たちも平和に暮らしました。

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