和尚さんとネコ/(山下嘉四郎)


 むかしむかし、大きな町に庵寺コありました。葬式も滅多に頼みに来ないので、食べ物が無くなれば托鉢に回って暮らしをたてていました。

 ある雨の日、町はずれに一匹のネコがニャーニャー鳴いていました。和尚さんは可愛そうに思い、拾って、トラという名前を付けて仲良く暮らしておりました。

 ある日、そこの町の長者の一人娘が亡くなりました。その夜(ばんげ)、和尚さんは不思議な夢を見ました。 トラが口をきいて(喋って)いるのです。

「長者の娘の葬式には、緋の衣を着た立派な和尚さんが、たくさん頼まれると思います。だけど、和尚さんは頼まれません。けれども必ず大勢の後から付いて行ってください。私が棺桶(はやおけ)を空中高く登らせます。そうするとみんな大騒ぎをするでしょう。立派な和尚さん達がどんなにお経を上げても、棺桶(はやおけ)は降りてこないようにします。その時、和尚さんが出ていって「ナムトラヤ、ナムトラヤ、トラヤ、トラヤ」と唱えれば、棺桶が元の所へ納まります。」と。はっと思ってトラを見ますと、和尚さんの布団の上で丸くなって寝ていました。

 半信半疑で、葬式の日は大勢の人の後に付いて行きました。すると、葬式がもう終わる頃、夢のとおり棺桶(はやおけ)がズンズン天に登って行きました。みんな大騒ぎとなり、居並ぶ和尚さん達も慌ててお経を唱えましたが、降りてきません。

 そこで、和尚さんが前に出て「私にお経を唱えさせてください。」と言いました。人々は「立派な和尚さんでも駄目なんだから、おめ(お前)みたいなシラミたがれの坊主(ぼんず)に何ができる。」と罵り(ののしり)ましたが、「ナムトラヤ、ナムトラヤ、トラヤ、トラヤ」と唱えたら、棺桶(はやおけ)がスーッと降りて来ました。

 参列していたみんなは驚いて(どってんして)、これは偉い和尚さんだということになり、それからはトラと幸せに暮らしましたとさ。

 トッツパレコピー


小砂もどる