塵も積もれば何とやら/(奈良 まめ)


 むかしむかし、あるところに年頃の娘がいました。
 見合いをして、相手の稼ぎも良いし、人柄もよいと思ったので、嫁に行きました。けれども、だんな様が稼いでくるお金で一つの家庭(かまど)を維持して行くのは、思っていた以上に難儀でした。

 ある日の朝(あさま)、隣のお婆さんに「おばちゃ、おばちゃ、亭主の稼ぎだば、我、とってもやりくりでぎね(出来ない)。帯の一本も買いたいと思っても買うこともでぎね。この先こんな風だば、我、里さ帰る気になってら。」と愚痴をこぼしました。すると隣のお婆さんは「んーん、そんだが。せばあねっこ(若いお母さん)、ちょっと裏の井戸さ行って、底(した)の無い桶さ、つるべで水汲んでみなが(みなさい)。」と言いました。

 嫁さんは不思議に思いましたが、返事をして水を汲み始めました。しかし、いくら汲んでも底のない桶ですので、いっこうに水は溜まりません。それで「おばちゃ、おばちゃ、なんぼ汲んでも、水溜まらなね。」と言いました。お婆さんは「そんだが、せば、底の無いつるべで、桶に水ごと汲んでみなが(みなさい)。」と言いました。それで嫁さん、今度は底の無いつるべで井戸から水を汲みました。底がないので水は全部落ちてしまいます。が、それでもタラタラと数滴(わんつか)落ちました。

 そんな繰り返しをして、お昼までにはどうやら桶の半分くらい溜まりました。嫁さんは何だかとっても嬉しくて「おばちゃ、おばちゃ、底の無いつるべで水汲んでも、昼(ちゅうはん)までかかったら、半分溜まった。」と言いました。

 お婆さんは「あね(嫁さん)、底(した)の無いつるべで水汲んでも、水溜まって桶さ半分になるべ。おめ(あんた)も頭使ってやりくり辛抱せば、わんつか(少し)ずつでもお金(ジェンコ)溜まってゆくもんだ。一生懸命稼いでくるジェンコだはんて、何でも辛抱さねばマイネ(駄目だよ)。」と言いました。それで、お嫁さんも「そんだべな、もう少し我慢してみるが・・・」という気持ちになりましたとさ。

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