奥方様の屁/(奈良 まめ)


 むかしむかし、ある国に殿様がいました。殿様の奥方様は、おなかに赤ちゃんがいたので、右を向くのも左を向くのも苦しくて(せずなくて)大変でした。

 ある時、殿様の晩酌のお相手をしていました。お酌をしようと身体をねじった(むじった)とたん「プッ」と屁が出てしまいました。運悪く、その音が殿様に聞こえてしまい、殿様は「無礼である。」と怒りだして、「離縁する!」という話になりました。 家来達は必死で止めましたが、生来のわがまま者の殿様は言うことを聞かず、とうとう奥方様は里へ帰されてしまいました。

 十年の歳月が流れ、産まれた子供も立派な男の子におがって(成長して)いました。あるとき、子供が母親に「自分の父親は、どんな人か。」と尋ねました。母は言葉を濁していましたが、話をしても分かる年頃だと思い、「実は、おめ(お前)は殿様の子で、おめが腹にいだ頃、殿様にお酌をして身体をむじった時、屁したどごで(ので)、それで我は家に帰されてしまったの。」と話しました。男の子はさがしい(賢い)子でしたので、もうそれ以上は聞きませんでした。

 しばらくしたある日、男の子は枯れ枝を一本持ってお城に向かいました。門の前に着きますと、大声で「さあさあ、世にも珍しい枯れ枝だよ。まじないをすると花が咲くよ。」と歌い出しました。門番は不思議なことをいう子供だと、殿様にお伝えしました。殿様はちょうど退屈していたので、「そんな面白い子供(わらし)なら、呼んでこい。」と言いました。

 男の子は殿様の前呼ばれ、「さあ、枯木に花を咲かせてみろ!」と言われました。そこで男の子は少しもあわてず「この世に屁をしない人があったなら、この枯れ枝に花を咲かせます。」と言いましたので、殿様は、その子が自分の子供だと分かりました。

 殿様は自分のわがままを悔い改め、奥方様と子供を呼んで、幸せに暮らしましたとさ。

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