腹のへる薬草/(海浦 義円)


 むかしむかし、欲深い(ごうつく)な男がいました。

 男はある日旅へ出かけました。歩き疲れて、木陰の草むらに腰を下ろして(ねまって)、眠り込んでしまいましました。

 どのくらい眠ったのでしょうか。ヒヤッとしたものが通り過ぎ、男はびっくりして目を覚ましました。すると、大きなおなかをした蛇が通りすぎていきました。男はたまげて、思わず逃げ腰になりましたが、目だけは蛇の行方をジッと見ていました。

 蛇は、男の側に生えている草をむしり取って食べ始めました。すると、今までパンパンに膨らんでいた、大きなおなかが段々小さくなり、終いにはペッタンコになって、スーっと草むらに消えて行きました。

 それを見ていた男は、「あの草は、きっと消化を助ける薬草に違いない!」と、その草をむしり取って、懐に押し込みました。

 何日か旅を続けている内に、ある村に着きました。村の一膳飯屋の看板には「10杯食べた人はお金(じぇんこ)いりません。」と大きく書いていました。
 強突張りな男は、しめたとばかり、その店に飛び込み、「おい親爺、挑戦するじゃ。本当に10杯食(け)ば、ジェンコ出さねしてもいいんだべ。」と念を押し、「へば、ジャンジャン、持ってきてけれ!」と注文しました。

 男には内心、「我には、あの薬草があるので、何10杯でも食える。」という自信がありました。 1杯目、3杯目、5杯目、7杯目、けれども9杯目になると、どんなに頑張っても駄目です。少しでも動くと口から出そうに(もどしそうに)なります。

 男は店の人の目を盗んで、例の薬草を口の中に押し込みました。すると何だかスーッとしました。ふと、足下を見ると自分の足がありません。ギョッとしているうちに、体が溶けてしまいました。

 蛇が食べた草は、人間を溶かす薬草だったのです。何でもかんでも真似すればマイネ(駄目だ)っていう話っこでした。

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