モッコの牙


 むかし、馬鹿な婿さまがおりました。
 ある日の朝、起きてみるとあんまり天気が良いので、何だかとっても良い気分になりました。それを見ていた嫁さまは、「里(実家)サ、遊ぶに行くベシァ。」と、持ちかけました。婿さまは大賛成です。婿さまと嫁さまは、久しぶりに二人揃って遊びに出かけたのでした。

 実家の舅さまは大変喜んで、いっぱいご馳走をすることにしました。婆さまと姑さまが相談して、特別おいしいボタモチを作ることにしました。作っている最中に、この家のワラシ(子ども)達が帰って来て、「婆さまァ、何こへでら(作っている)バァ、我も食てなァー」と、せがみました。

 婆さまは、あんまりワラシ達がうるさいのでお客様が帰ってから食べさせようと、「これァ、モッコってし(言う)もんだネ。ワラシ達ァ、食うもんでネ(じゃない)」と叱って、外に追い出しました。ちょうどその時、からかみ(襖)の婿さまが、その話を聞きつけて、怖くなってブルブル震えていました。

 ようやくボタモチが出来て、二人には皿に山盛りのボタモチが出されました。婿さまは、いつ皿からモッコが「ゴビャー!」と来るかと、気が気ではありません。どんなに勧められても婿さまは口にしませんでした。
 しばらくして、二人は家に戻ることにしました。姑さまは、手をつけなかったボタモチを苞(つと)に入れてお土産に持たせてくれました。

 二人は朝来た道を帰ってきましたが、婿さまは右手に持った苞が気になって仕方がありません。気が向かないままダラリと下げて歩いていると、何かにつまづいて、その苞をボダラと落としてしまいました。
 
苞の口がガジャラっと開いて、なかからボタモチがのぞいて見えます。ボタモチの下側にあんこがあんまりくっ付いていないので、おっかなビックリの婿さまには、化け物が白い牙を剥いて自分を襲ってくるようにみえました。

 婿さまは、ドッテン(ひどくビックリ)して、嫁さまをほっぽらかして、苞を投げ捨てたままワタワタ(あたふた)ど、家に向かって走りだしました。

 やっと嫁さまが追いついたところ、婿さまは息をハァハァさせて、「したて(何故なら)、モッコ、牙もくて(むいて)襲い掛かって来たんダネ」と、申しましたとさ・・・。

 トッツパレッコピー

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