亀の恩返し


 むかしむかし、深浦に長四郎という者が住んでおりました。

 ある日の夕方、長四郎が浜辺をブラブラしておりますと、カラスやトンビが大層にぎやかに鳴いております。長四郎が「どうしたことか。」と、側に行ってみますと、3−4尺もあろうかという大きな亀がゴロリとひっくり返って盛んに突つかれておりました。 気の良い長四郎のことですから、「かわいそうに。」と、その亀を海に戻してやりました。

 その夜、立派な若者が夢の中に現れて「だんな様、だんな様、私は浜で助けてもらった亀です。先程は誠にありがとうございました。恩返しと言うほどのものではありませんが、不老不死の霊木を差し上げます。明日の朝、あの浜辺へお出でください」と、話したそうです。

 長四郎は不思議なこともあるものだと、翌朝に例の浜辺に出かけて行きました。すると、昨日の大きな亀が木のようなものを咥えて波間から顔を出しました。長四郎のところへノソリノソリやって来て、霊木なるものを手渡し、何回も何回もお辞儀をして海に帰って行きました。

 正直者の長四郎のことですから、早速庄屋様に事の次第を申し上げたところ、「津軽の殿様に献上したほうがいいだろう。」と、いう話です。長四郎がその霊木を殿様に献上したところ、たくさんの褒美をいただいたそうです。

 それから霊木は江戸の将軍様に献上されましたが、その後どうなったかは皆目わかりません。何せ「不老不死の霊木」ですから、あっちに少し、こっちに少しと削られて、そのうち無くなってしまったことでしょう。

 長四郎もご褒美をいただいたものの、死ぬまでしか生きられなかったということです。

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