雪の進軍(A)
明治28年

作詞
作曲
永井 建子


雪の進軍 氷を踏んで
どれが河やら 道さえ知れず
馬は斃(たお)れる 捨ててもおけず
ここは何処(いずく)ぞ 皆敵の国
ままよ大胆 一服やれば
  ■頼み少なや 煙草が二本

焼かぬ乾魚に 半煮え飯に
なまじ生命の あるそのうちは
こらえ切れない 寒さの焚火
(けむ)いはずだ よ生木が燻(いぶ)
渋い顔して 功名噺(ばなし)
  ■「すい」というのは 梅干一つ

着の身着のまま 気楽な臥所(ふしど)
背嚢枕に 外套かぶりゃ
背の温みで 雪解けかかる
夜具の黍殻(きびがら) しっぽり濡れて
結びかねたる 露営の夢を
  ■月は冷たく 顔覗き込む

命捧げて 出てきた身ゆえ
死ぬる覚悟で 吶喊(とっかん)すれど
武運拙(つたな) く 討死にせねば
義理にからめた 恤兵真綿(じゅっぺいまわた)
そろりそろりと 頚(くび)締めかかる
  ■どうせ生かして 還さぬ積り


歌詞:10/07/02/midi:
■作者が、大山巌大将率いる第二軍司令部付の軍楽隊の軍楽次長として山東半島の虎山という寒村に二週間駐営したときにつくったもの。
■歌の最後の文句「どうせ生かして還さぬ積り」は、昭和に入ると不穏当だと軍の横槍が入って、「どうせ生きては還らぬさぬ積り」に改めさせられ、その後、歌唱禁止になった曲。

■恤兵とは、日本各地から兵隊に送られた慰問の品のこと。