戦友(A)
明治38年

作詞
作曲
真下 飛泉
三善 和気

ここはお国を何百里
離れてとほき満洲の
赤い夕日にてらされて
■友は野末の石の下

空しく冷えて魂は
故郷へ帰ったポケットに
時計ばかりがコチコチと
■動いてゐるも情けなや

思へばかなし昨日まで
真先かけて突進し
敵を散々懲らしたる
■勇士はここに眠れるか

思へば去年船出して
お国が見えずなった時
玄海灘に手を握り
■名を名乗ったが始めにて

ああ戦の最中に
隣におりし此の友の
俄かにハタと倒れしを
■我は思はず駈け寄りて

10 それより後は一本の
煙草も二人わけてのみ
ついた手紙も見せ合て
■身の上ばなしくり返し

軍律きびしき中なれど
是が見捨てて置かれうか
「しっかりせよ」と抱起し
■仮繃帯も弾丸の中

11 肩をだいては口ぐせに
どうせ命は無いものよ
死んだら骨を頼むぞと
■言ひかはしたる二人仲

折から起る突貫に
友はやうやう顔上げて
「お国の為だ関はずに
■後れて呉な」と目に涙

12 思ひも寄らぬ我一人
不思議に命ながらへて
赤い夕日の満洲に
■友の塚穴掘らうとは

あとは心に残れども
残しちゃならぬ此身体
「それぢゃ行くよ」と別れたが
■長の別れとなったのか

13 くまなくはれた月今宵
心しみじみ筆とって
友の最後をこまごまと
■親御へ送る此手紙

戦すんで日が暮れて
さがしにもどる心では
どうぞ生てゐて呉れよ
■物なと言へと願ふたに
14 14筆の運びはつたないが
行燈のかげで親達の
読まるる心思ひやり
■思はずおとす一雫


歌詞:10/07/02/midi: