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ここはお国を何百里
離れてとほき満洲の
赤い夕日にてらされて
■友は野末の石の下
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8 |
空しく冷えて魂は
故郷へ帰ったポケットに
時計ばかりがコチコチと
■動いてゐるも情けなや
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2 |
思へばかなし昨日まで
真先かけて突進し
敵を散々懲らしたる
■勇士はここに眠れるか
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9 |
思へば去年船出して
お国が見えずなった時
玄海灘に手を握り
■名を名乗ったが始めにて
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3 |
ああ戦の最中に
隣におりし此の友の
俄かにハタと倒れしを
■我は思はず駈け寄りて
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10 |
それより後は一本の
煙草も二人わけてのみ
ついた手紙も見せ合て
■身の上ばなしくり返し
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4 |
軍律きびしき中なれど
是が見捨てて置かれうか
「しっかりせよ」と抱起し
■仮繃帯も弾丸の中
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11 |
肩をだいては口ぐせに
どうせ命は無いものよ
死んだら骨を頼むぞと
■言ひかはしたる二人仲
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5 |
折から起る突貫に
友はやうやう顔上げて
「お国の為だ関はずに
■後れて呉な」と目に涙
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12 |
思ひも寄らぬ我一人
不思議に命ながらへて
赤い夕日の満洲に
■友の塚穴掘らうとは
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6 |
あとは心に残れども
残しちゃならぬ此身体
「それぢゃ行くよ」と別れたが
■長の別れとなったのか
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13 |
くまなくはれた月今宵
心しみじみ筆とって
友の最後をこまごまと
■親御へ送る此手紙
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7 |
戦すんで日が暮れて
さがしにもどる心では
どうぞ生てゐて呉れよ
■物なと言へと願ふたに
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14 |
14筆の運びはつたないが
行燈のかげで親達の
読まるる心思ひやり
■思はずおとす一雫 |