陸奥の吹雪(A)
八甲田遭難哀悼歌/明治35年

作詞
作曲
落合 直文
好楽 居士

白雪(しらゆき)深く降り積もる
八甲田山の麓原(ふもとばら)
吹くや喇叭(らっぱ)の声までも
凍るばかりの朝風を
物ともせずに雄々しくも
■進み出でたる一大隊

身を切るばかり寒ければ
またも露営と定めしが
(たきぎ)の無きを如何にせん
食のあらぬを如何にせん
背嚢(はいのう)銃身焚きつれど
■そもまた尽きしを如何にせん

田茂木野(たもぎの)村を後にして
踏み分け上(のぼ)る八重の坂
雪はますます深うして
(そり)も動かぬ夕まぐれ
せんなくそこに露営せり
■人は垂氷(つらら)の枕して

雪のこの夜の更けゆきて
寒さはいよいよまさりたり
凍え凍えて手の指の
見る見る落ちし者もあり
神いまさぬかあなあわれ
■命迫れり刻(とき)の間に

明くるを待ちてまた更に
前へ前へと進みしが
み空のけしき物すごく
たちまち日影かき暗し
行くも帰るも白雪の
■果ては道さえ失いぬ

居ながら死なんそれよりは
いずこへなりと行き見んと
山口少佐を初めとし
二百余人の兵(つわもの)
別れ別れに散り散りに
■たどり行きけり雪の道

雪降らば降れ我々の
勇気をここに試しみん
風吹かば吹けさりとても
行く所まで行かでやは
さは言え今は道もなし
■あわれ何処ぞ田代村

烏拉爾(ウラル)の山の朝吹雪
吹かれて死ぬるものならば
西伯利亜(シベリア)原の夜の雪
埋もれて死ぬるものならば
笑み含みてもあるべきに
■ああ哀れなり決死隊

君のためには鬼神(おにがみ)
取りひしぐべき丈夫(ますらお)
国のためには火水(ひみず)にも
入らば入るべき武士(もののふ)
今日の寒さは如何にせん
■零度を下る十八度
10 ここの谷間に岩陰に
はかなく倒れしその人を
問い弔えばなまぐさき
風徒(いたずら)に吹き荒れて
うらみは深し白雪の
■八甲田山の麓原(ふもとばら)


歌詞:10/07/02/midi:
■明治35年1月23日、対露戦に備えて耐寒訓練中、青森歩兵第五連隊の将兵210名が八甲田山で猛吹雪に遭遇し、生存者はわずかに11名という遭難事件を歌ったもの。「八甲田山死の雪中行軍」として有名。