九月の宵【Em】

詞曲
訳詞
ブランテル
島村 喬


九月の宵に 君を迎えた
懐しの駅は われらのモスクワ
空は夕焼けに 赤く映えて
  ■君の笑顔は 輝やきみつ

九月の夕べに 君を送りし
わたしの胸は 哀しみにみつ
君に贈りし 青い襟巻
  ■汽車は離れる たそがれだけ


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新おけら歌集(10/10/10-12/25)ロシアの詩 / 楽譜:ビーさん(10/12)
■九月の宵
 この軽快で少しぱかり哀愁のこもった歌は、1944年の秋、モスクワの放送局から全ソに1流されて、主としてモスクワとレニングラードで流行した。作曲者はブランテール。「カチューシャ」や「灯火」などを作曲した人である。作詞はレベジョフ・クマチであったと記憶するが、どういうわけか全ソ的な流行をみなかった。
 私が1947年の春に・カンスクの劇場でこれを歌ったとき、シベリヤのこの古い都市の市民たちの中にははじめてきくひとたちが多かったくらいだから、日本にもはいってなかったのは無理もない。当時のソヴェートで、このよう意味のうたが苛烈なソ独戦争と無関係にうたわれたということは興昧がある。もっとも、それだから全ソ的な流行をみなかった、という理由の一端にはなるかも知れない。
 歌詞の内容は、ある娘が、ある年の九月の宵を思いだしている。内容はきわめて簡単なものだが、青い襟巻を贈った娘の愛人は、どこかえ去っていったのだ。背後に戦争の匂いがする。男は軍人で独ソ戦線へ発っていく日の宵であったのかも知れない。そうすると、この歌は単なる恋め歌ではない、ということになるが、その代わり切実感が湧いてきて、このワルツの哀愁さが、ぐっと前面にあらわれて、第14小節の「A#」から、そうした感動がいかんなく盛りあがってくる。ソ遵の流行歌曲の中の典型的な美しさをもっ'た曲であり、民俗性と洗練のバランスが非常にいい。
1960/01/28 百瀬三郎【島村喬】