親の言うことをきかない子蛙(熊谷 さい)

 昔、とても親不孝な子蛙がいたそうです。
 例えば、母蛙が山へ行こうと言えば川に行ってしまう。川へ行こうと言えば、反対に山へ行ってしまうというありさまでした。

 年月がたって、母蛙が歳を取り、命も今日か明日かという状態になりました。子蛙は、一度だけでも親の言うことを聞き、孝行したいと考えました。そこで、明日ともしれない母蛙のそばで、何か言うことはないかと聞きました。
 母蛙は、川のあるところで生きてきたので、死んだら川のそばへ埋めてもらいたいと思っていましたが、そのとおり言うと、反対に山へ埋められると考え、子蛙に言いました。「私が死んだら、丘の上へ埋めてほしい。」

 子蛙は、そのとおりにしようと思いましたが、最後だから今一度だけ反対しようと考え、母蛙を川のそばに埋めたということです。
 母蛙は本望だったのですが、子蛙は、雨が降るとお墓が流されると泣いたそうです。雨が降ると蛙がよく鳴くようになったのは、それからだそうです。

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