おへその爺様(松井 たま)

 昔、ある小さな村に爺様と婆様が住んでいました。ある朝、婆様は爺様に言いました。
 「かまどさた(炊)ぐ柴ね(無)ぐなってらはで、柴取りに行がねばまいねど。」 そこで爺様は山へ出かけ、大きな柴のまるぎ(束ねた枝木)を三まるぎも背負って家へ帰りました。帰る途中、大きな穴を見つけたので、爺様は「この穴、何たべな」と思いましたが、もし誰かが落ちたらあぷないので、柴でふさぐことにしました。

 一まるぎ目の柴は穴へするするっと落ちてしまいました。そこで、残りのまるぎでふさごうとしたら、それも落ちてしまいました。困った爺さが穴をのぞこうとしたら、その中からきれいな女の人が出てきて言いました。
「爺様、爺様、私について来てください。」 爺様は女の人にさそわれるまま、後からついていきました。
 穴の中には立派な家があり、庭先には爺様が背負ってきたまるぎがそのままに置かれていました。 「さ、どうぞどうぞ。」 女の人は丁重に爺様を座敷に案内しました。間もなく、お膳が運ばれ、おいしい料理が並べられました。爺様は腹いっぱいごちそうになりましたので、お礼を言って家へ帰ることにしました。そのとき、白いひげのおじいさんが現われ、「帰るなら、この童子(わらし)<れてやるから、いっしょに連れていってくれ」とお願いされました。その童子は、白分のへそばかりいじっています。おかしい童子だと思いましたが、一緒に家へ連れてきました。

 家に着くなり、婆様は怒って言いました。
「こんなに遅ぐなってしまって、今まで何してらんだば。この童子何だば。」 爺様はわけを話しましたが、婆様は聞き入れそうもありませんでした。
「何ぼ見たぐね童子だば、これがら、この童子どうすんだば、わだきア、かもね(面倒見ない)はで。」

 次の朝起きてみると、その童子はまたへそばかりいじり回すので、爺様は、「どうした、おへそがかゆいのが」と言って、童子のへそをなで回すようにしてやりました。すると、おへその中から、金や銀が出てきたので、爺様はおどろいてしまいました。
 爺様はその日も山へ出かけました。婆様は、童子のへそからお金が出て<るのを見ていたので、いやがる童子のへそを、無理やりいじくり始めました。童子は泣き<ずれていましたが、婆様がいじくるのを止めなかったので、とうとう死んでしまいました。山から帰った爺様は、童子が死んだと聞いて、何日も何日も悲しみました。
 
ある夜のことです。童子が爺様の枕もとに現われ、「爺様、爺様、私の顔を描いて、かまどにはっておけば、一生幸せに暮らせる」と言って姿を消しました。爺様が童子の言うとおりにしたら、一生幸せに長生きしたそうです。

 むらの人たちは、その爺様のことを『おへその爺様」と呼ぷようになったといいます。

 
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