雁なべ/(海浦 義円)


 むかしむかし、あるところに2組のお爺さんとお婆さんが住んでいました。

 秋になって雁が渡ってくるようになりました。それを見ていた、上の家のお婆さんが、お爺さんに、
「おめ、雁ごと食ったごとあるが?」 「ああ、大しためー(美味しい)もんだ。」 「我も、食ってみてなぁー。」と、お婆さんが言いました。

 それを聞いた、お爺さんが、「せば、どれ、雁ごと捕ってやるが。灰(あぐ)ごと用意してけなが。」 お婆さんは、お爺さんに言われたとおり灰を準備しました。

 しばらくすると雁の群が飛んできました。お爺さんは屋根に登って、「雁の眼(まなぐ)さ、あぐ入れ。爺っこのまなぐさ、あぐ入いんな」と、大声で叫んであぐをまきました。
 そしたら、雁がバタバタと落ちてきました。下で待っていたお婆さんの籠は見る間に雁で溢れてしまいました。お爺さんは「もう、いがべ」と屋根から降りてきました。

 その晩は「雁なべ」です。美味しそうな匂いが辺り一面に漂いました。その匂いは下の家まで届きました。余りいい匂いなので下の家のお婆さんはお爺さんに、「おめ、用コあるふりして、何食ってらが見で来い。」と言いました。そこで、お爺さんが行ってみると、雁なべです。上の家のお婆さんは下の家のお爺さんにも、雁なべをよそって上げました。

 食べ終わった後、雁の捕り方を聞いて帰ったお爺さんは、お婆さんに灰(あぐ)をいっぱい用意させました。それから、毎日毎日雁が飛んでくるのを待って、空ばっかり眺めていました。

 ある日、とうとう雁が飛んできました。早くしないと雁がいなくなってしまいます。お爺さんは、大慌てに慌てて屋根に登るのももどかしく、灰を握って、「爺っこ眼(まなぐ)さ、あぐ入れ。雁ののまなぐさ、あぐ入いんな」と、大声で叫んでしまいました。

 それでお爺さんの眼に灰がいっぱい入ってしまい、雁の代わりにお爺さんが屋根から落ちてしまいましたとさ。

 トッツパレッコピー


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