夏吹く風の店/ (赤川熊太郎)


 むかしむかし、里のはずれの一軒家に両親(ふたおや)に死に別れた娘(むすめっこ)が一人住んでいました。美人(おなごぶりいぐ)で働き者娘でしたが、女一人の働きでは食べるのがやっとでした。

 ある雨の夜(ばん)の事です。一人の旅人が道に迷い、一晩の宿を乞いました。娘は心の優しい人だったので、「そんだに濡れてまって、さぁさぁ、あばらやだばって・・・」と、家の中に入れました。

 雨傘を取ると、その旅人は立派な(おどごぶりのいい)若者(わげもの)でした。娘は雑穀ばかりの雑炊を、「口さ、合わねべども・・・」とすすめました。「あー、めー(美味しい)、今までこんだにめー(美味しい)ど思って、食ったもの無なぁ」と、若者は丁寧にお礼を述べました。

 ユルギ(囲炉裏)をはさんで二人は休みましたが、どちらも相手のことが気になって眠れません。とうとう一番鶏が鳴くまで、目が覚めていました。

 次の日、若者は朝早く出発しました。きちんとたたんだ布団の上に手紙がありました。

 それには「この道をズーッと行くと、石の上に角を出した立て札がある。それを越えて行くと、一生腐らぬ橋がある。そのそばの夏吹く風の店。訪ねて来るなら、いつでも来てけれ(来て下さい)。」と書かれていました。

 娘は若者を一目で好きになってしまったので、その紙を持って旅に出ました。しばらく行くと道が二手に分かれています。どっちへ行けばいいのでしょう。娘は考えあぐねましたが、「石の上に角」とは右という字だと思いついたので、右の方へ行きました。

 しばらく行くと大きな町に出ました。町の中心には石組みの橋があり、そばに扇子や団扇を売っている大きな店がありました。娘がのれんをくぐると、あの若者がいるではあろませんか。夏吹く風の店とは「扇子や団扇を売っている店」のことでした。若者はここの息子だったのです。

 若者も娘を一目見て好きになっていたので、二人は夫婦になり幸せに暮らしましたとさ。

 トッツパレッコピー

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